太陽光発電のメンテナンス義務と罰則を解説

再生可能エネルギーの普及とともに、太陽光発電は一般家庭から事業用まで幅広く導入されてきました。しかし、導入後のメンテナンスにまで意識が向いている方は意外と少ないかもしれません。実は、太陽光発電設備には法的なメンテナンス義務があることをご存知でしょうか?
2017年4月に施行された改正FIT法により、適切な保守点検と維持管理が義務づけられ、違反時には罰則や認定取り消しといった重大なリスクも発生します。
本記事では、制度の背景、対象設備、罰則内容、点検方法、費用目安、そしてよくある質問まで、総合的に解説します。太陽光を導入している方、これから導入を検討している方は必見です。

1.太陽光発電とメンテナンス義務化の背景

引用元:photoAC

太陽光発電は、再生可能エネルギーの中でも特に導入が進んでいる分野であり、2012年の固定価格買取制度(FIT制度)の導入により、日本全国で急速に普及しました。
しかし、設置後の発電設備が十分なメンテナンスを受けないまま放置されるケースが増加し、いくつかの問題が顕在化するようになりました。

特に問題となったのは、以下のような事例です。

  • 発電量の低下や停止に気づかず長期間放置
  • 接続不良や機器劣化による感電・火災事故の発生
  • 放置された設備による地域景観や安全性への悪影響

こうした背景から、国は再生可能エネルギーの信頼性確保と安全性向上を図るため、2017年4月1日に改正FIT法(再生可能エネルギー特別措置法)を施行。この中で、太陽光発電設備の保守点検と記録管理の義務化が明文化されました。
これにより、FIT認定を受けたすべての設備について、定期的な点検と適切な維持管理が求められることとなりました。つまり「設置して終わり」ではなく、「設置後の責任を果たす」ことが法律上の義務になったのです。

また、この法改正は、個人事業主や中小企業の発電事業者にも大きな影響を与えました。設備規模にかかわらず、メンテナンス体制を整える必要が生じたことで、「点検は業者任せ」では済まされない時代が到来したとも言えます。
太陽光発電は20年〜30年と長期にわたって稼働する設備です。その間、定期的な点検を実施することで発電効率を維持し、重大事故を未然に防ぐことが、法律・安全の両面から求められているのです。

2.義務化の対象となる設備と基準

引用元:photoAC

改正FIT法において、メンテナンスの義務が課される太陽光発電設備には明確な基準があります。まず基本となるのが、「FIT認定を受けた設備」であるかどうかです。

FIT認定設備はすべてが対象

住宅用(10kW未満)、事業用(10kW以上)を問わず、FIT制度に基づいて売電を行う全ての太陽光発電設備は、原則として保守点検と記録管理が法的に義務づけられています。出力の大きさに関係なく、適切な点検・維持を怠ることは法令違反となり得るため、特に注意が必要です。

また、これには新規設置だけでなく、既存のFIT認定設備(2017年4月以前に導入されたもの)も対象となる点に注意が必要です。旧制度のもとで設置した場合でも、改正法の適用を受けるため、メンテナンス義務が発生します。

非FIT設備でも条件次第で対象に

一方、FIT認定を受けていない太陽光設備であっても、出力が50kW以上の場合には、別の法律である「電気事業法」に基づき、保安規定の届出や点検義務が課されます。これには以下のような例が該当します。

  • 工場や倉庫などの屋根に設置された高出力設備
  • 企業や自治体が自家消費用に設置した大規模設備

これらのケースでは、電気主任技術者による定期点検や報告書の提出が求められることもあり、法的管理の対象となることを理解しておく必要があります。

50kW未満の非FIT設備は「義務なし」だが注意が必要

出力が50kW未満で、かつFITを利用していない小規模設備については、現行法上では明確なメンテナンス義務は定められていません。しかし、これはあくまで法的な話であり、実際には点検を怠ることで火災や感電などの事故リスクが高まるため、事実上「自己責任」での点検が強く推奨されています。

特に、個人住宅に設置された設備は、導入から年数が経つにつれ、架台のサビやケーブルの劣化が発電性能に影響を与える場合もあります。法の適用がないからといって放置するのではなく、安全性と長期運用を見据えて、計画的な点検体制を構築することが重要です。

3.メンテナンス義務を怠った場合の罰則

引用元:photoAC

太陽光発電設備におけるメンテナンス義務は、単なる推奨ではなく法的に定められた義務です。
とりわけ、FIT認定を受けている設備に対しては、改正FIT法に基づき、点検を怠った場合に厳しい措置が取られる可能性があります。

最初に行われるのは「指導・改善命令」

まず、設備保有者が保守点検を適切に行っていないと判断された場合、経済産業省やその委託機関(地方整備局など)から指導や改善命令が発出されます。この段階では是正措置を取るよう促される形となり、比較的ソフトな対応です。

この命令に基づき、迅速かつ適切に点検体制や記録管理を整えれば、それ以上の処分には至りません。しかし、ここで改善が見られない場合、次の段階へと進みます。

認定の取り消しという最も重い罰則

改善命令に従わなかったり、明らかな故意・過失が認められる場合は、再生可能エネルギー発電設備としてのFIT認定が取り消される可能性があります。これが意味するのは、売電契約の終了=収入源の喪失です。

特に事業用設備の場合、投資回収の途中で認定が取り消されると、大きな損失につながります。また、設備によっては撤去命令や安全上の措置を求められることもあります。

社会的信用や再認定への影響も

一度認定取り消しの処分を受けると、その情報は経済産業省の公表資料や業界団体のデータベースに掲載される場合があります。これにより、再びFIT制度を活用する際の審査が厳しくなる可能性があり、企業にとっては事業展開の障害となりかねません。

また、業者任せで点検を怠っていたとされるケースでは、発電事業者本人に過失責任が問われるため、点検の外注であっても「任せきり」にしない管理責任が求められます。

4.推奨される点検の頻度と内容

引用元:photoAC

太陽光発電設備の適切なメンテナンスを行うためには、点検のタイミングと内容を明確に理解しておくことが重要です。改正FIT法では点検の具体的な頻度までは明示されていないものの、国や業界団体が公表しているガイドラインにより、一定の目安が示されています。

点検頻度の目安

太陽光発電協会(JPEA)や日本電機工業会(JEMA)がまとめた「太陽光発電システム保守点検ガイドライン(住宅用)」によると、以下のようなスケジュールでの点検が推奨されています。

設置から1年目 初期不良や工事不具合の確認
設置から5年目以降 経年劣化・破損部品のチェック
以降4年ごと 定期的な詳細点検の実施

また、年1回程度の簡易点検(目視確認など)を行うことで、日常的な異常やトラブルの早期発見につながります。

主な点検項目

点検の際には以下のような項目が対象となります。

点検対象 チェック内容
パネル本体 ガラスの割れ、表面の汚れ、変色など
配線・接続部 緩み、腐食、断線の有無
架台 錆、ゆがみ、ボルトの緩み
パワーコンディショナー エラー表示、異音、動作状況の確認
接続箱・ブレーカー 電流値、温度異常、遮断動作の確認

これらの項目は、専用の測定器や経験を要することが多いため、有資格者による点検が推奨されています。

日常のセルフチェックも有効

専門業者による定期点検とは別に、オーナー自身による簡単な日常点検も効果的です。以下のようなチェックを月1回程度行うことで、トラブルを未然に防ぐことができます。

  • 発電量が著しく下がっていないか(モニター確認)
  • パネルに落ち葉や鳥のフンが付着していないか
  • ブレーカーが落ちていないか
  • 異音や焦げた臭いなど、異常がないか

このようなセルフチェックを習慣化することで、異常を早期に発見し、必要に応じて点検を依頼する判断材料になります。

5.メンテナンス費用と実施方法

引用元:photoAC

太陽光発電設備のメンテナンスには、ある程度の費用が発生しますが、定期的に実施することで設備の寿命延長や事故予防、発電効率の維持につながります。ここでは、代表的な作業項目とその費用、そして実施方法について解説します。

一般的なメンテナンス費用の目安

パネル表面の洗浄 1枚あたり500〜1,000円
パワーコンディショナーの点検 1台あたり1〜3万円
電気点検(絶縁抵抗・漏電確認) 1〜3万円
パワーコンディショナーの交換 20〜30万円
架台や接続箱の点検 数千〜1万円前後

このほか、高所作業や屋根勾配のある住宅では、足場設置が必要になることがあり、5〜10万円程度の追加費用が発生するケースもあります。

実施方法:自社/外注どちらがベスト?

メンテナンスは「自社で行う」か「専門業者に外注する」かの選択肢があります。

  • 自社点検はコストを抑えられる反面、電気の専門知識や機材が必要になるため、基本的には限定的(目視点検やモニター確認など)に留めるのが安全です。
  • **外注点検(業者依頼)**は、安全かつ確実に点検できるため推奨されます。特に高所作業や電気点検は、感電や墜落などのリスクを避けるためにも、電気主任技術者や認定工事士を有する業者への依頼が原則です。

定期契約サービスも選択肢に

多くの施工業者や保守専門業者では、年間契約や定期点検パックを用意しています。年1回の訪問点検やレポート作成がセットになっており、費用相場は年間2〜5万円程度。FIT認定を受けている事業者や、設備規模が大きい場合はこうしたパッケージの活用が現実的です。

また、異常があった際の緊急出動対応や、定期報告書のフォーマット提供など、法令対応を視野に入れたサービスが多く、リスク対策としても安心です。

よくある質問

引用元:photoAC

自家消費型の太陽光発電でもメンテナンス義務はありますか?

法的なメンテナンス義務があるかどうかは、出力と制度利用の有無によって異なります。
具体的には、出力50kW未満かつFITを利用していない設備には、法令による点検義務は課されていません。
ただし、感電や火災などのリスクを防ぐため、事実上は定期的な点検が強く推奨されます。

点検を自分で行ってもいいのでしょうか?

基本的な目視点検(例:パネルの汚れや破損、モニターの発電量確認など)は所有者自身でも可能です。
しかし、配線・接続部の点検やパワーコンディショナーの電気的検査は、感電や火災のリスクがあるため専門業者に依頼するのが原則です。
特に、FIT認定設備や50kW以上の設備では、電気主任技術者の管理義務が発生するケースもあるため、法律的にも業者対応が望まれます。

メンテナンス記録の保管義務はありますか?

はい、あります。
FIT認定設備では、点検の実施日、点検者、点検内容を記録として残し、5年間程度保管することが求められています。
紙の記録簿だけでなく、クラウド管理やPDF保存でも構いませんが、監査対応の観点から即時提示できる状態にしておくことが重要です。

点検やメンテナンスに補助金は出ますか?

一部の自治体では、保守点検費用やパワーコンディショナーの交換費用に対する補助制度を用意している場合があります。
東京都や一部の政令指定都市では、再エネ設備の維持・更新に関する助成金制度が整備されており、導入前に市区町村のウェブサイトで確認することをおすすめします。

義務を怠ったことが発覚するとすぐに認定が取り消されるのですか?

いきなり認定取消となることはほとんどありません。まずは経済産業省から指導や改善命令が出され、改善の猶予が与えられます。
しかし、それを無視したり繰り返し違反した場合は、最終的にFIT認定の取り消しや行政処分の対象となる可能性があります。